人類が音に興味を持ち、やがて音楽として楽しむための楽器を手にするまで永い年月がかかったと思います。特に打楽器は楽器の中でも古い歴史を持つと言われ
ています。古代人たちが木片を叩き、そしてやがて木片の下に何かを置くことでより響きのある音が出る事を知った事は容易に想像できます。このような打音楽器として代表的な木琴はやがて文明の発展とともにラテンアメリカではマリンバ、ヨーロッパではシロフォンとして音楽界に登場してきました。
シロフォンもマリンバもアフリカからヨーロッパやアメリカに広まったと言われています。しかしマリンバの場合は、メキシコ南部、グァテマラ、ホンジュラス で多く演奏されてきた歴史があります。木琴の鍵盤として「良い音の出る木」の育成地域である事から、良い音の出る木のある所に木琴が生まれたとも想像できます。
ヨーロッパの音楽の歴史にシロフォンが初めて登場したのは19世紀ですが、サンサーンスが作曲した「死の舞踏」に骸骨の触れ合う響きに使われたのが始めと 言われています。この頃のシロフォンは現在のなじみのある木琴と違い、ハンガリーのジプシー音楽に使われる「ツィンバロム」の金属弦を木に置き換えたよう
な楽器でした。鍵盤は縦4列に梯子のように組み合わされ、真ん中の2列はピアノの白鍵、両側2列は黒鍵にあたります。白鍵の音階は互い違いに配列され低音 部を手前に、高音部は遠くになります。黒鍵部は左右全く同じものが並び、動きに便利な方の鍵盤を使います。あまり長くなると遠くの鍵盤に手が届かないの で、鍵盤も細く共鳴管も箱型で音量は小さく音質は硬いものでした。
この楽器のことを日本では「はしご型木琴」、「縦型木琴」などと呼んでいます。
ラテンアメリカで発達したのがマリンバです。ヨーロッパ型と異なるのは音階が左から右へピアノのように横に並んでいることと、鍵盤の下に円筒又は角筒型の 共鳴管をつけていることです。このためヨーロッパ型に比べて形も大きく、木片の幅も広く、共鳴管があるため音量も大きく、音質も柔らかいものでした。鍵盤 はスペイン人の進入とともに渡って来たピアノを基にして正しい音階と派生音をつけて近代的な楽器に生まれかわり、郷土色あふれた「マリンバ・オルケスタ」 としてラテン音楽の楽器としても活躍しています。
アメリカ合衆国において、オーケストラや吹奏楽の中ではヨーロッパ型木琴が使われていたこともありましたが、19世紀後半 John Calhoun Deagan (1853-1934)等により、現在の近代的なシロフォンやマリンバへと進化を始めました。
演奏しにくいヨーロッパ型の木琴よりラテンアメリカ型マリンバの形を模して、移動や運搬も便利になりました。さらにラテンアメリカ型マリンバは共鳴管が木 製ですがその代わりに科学技術の進展から金属製の円筒形の共鳴間を用い、大きさも3オクターブ前後の小型のものから5オクターブに及ぶ大型のものまで用途 を考慮したものが作られるようになりました。
音盤の調律も五度倍音をとり、明るく華やかな音色を持つシロフォンになりました。調律方法も最初は不完全な「耳の調律」から電気工学の進歩 とともにオシロスコープなどを用いて機器を用いた「目の調律」へと進み、現在の平均率の音階を持った楽器へと進化したのです。
現在のシロフォンは3倍音(オクターヴと5度上)が基本で、低音域では7倍音(2オクターヴと短7度上)も調律されています。一方マリンバの調律は4倍音 (2オクターヴ上の音)で、低音部ではさらに10倍音(3オクターヴと長3度上)も調律されていて、シロフォンに比べて豊かな低音が特徴となっています。
木琴は木の音盤を持つため温度が上がると音程は下がり、また湿度が上がっても音程が下がるため、高温多湿の日本の夏においては非常に下がり易くなります。 さらに、共鳴筒の調律は温度の上昇と共に音速が速くなるため音程が高くなり、音板と逆の変化をします。このためマリンバの共鳴筒は、音板との距離を調節で きる機構になっています。
マリンバ、シロフォン共に音板は主にローズウッド製が密度、強度、硬度から最も響きがよいのですが、他にはアフリカンパドック、樺、桜等も使用されています。
~鍵盤の材質を木琴とは異にする、鉄琴の仲間もご紹介したいと思います。~
この楽器は20世紀初頭アメリカに於いて、やはりDeagan氏によって開発されました。初期の頃は主にジャズ・オーケストラやコンボなどで使用される事が多かったのですが、最近ではジャンルを問わず演奏に用いられています。
木琴と比べて大体の構造は同じですが、
などが、おもな相違点です。
ヴィブラフォン
鍵盤の並びは、木琴の場合はピアノの白鍵の部分と黒鍵の部分は段差がありますが、ヴィブラフォンの場合同じ高さに揃えられています。その音域は3オクター ブが標準ですが、4オクターブ、4オクターブ半のものも製作されています。金属製のため音が良く伸びるので音を止める装置、ダンパーがついています。ダン パーは足元のペダルによって操作され、音を自由な長さに切ることができます。鍵盤を叩いただけでは音はただ伸びるだけの為これにヴィブラートを与えて美し く、かつ音楽的に響かせます。これがこの楽器の一番の特徴で、ヴィブラフォンという名前は「ヴィブラートのかかった音」という意味です。その方法は共鳴管 (パイプ)の上端の所にシャフトで連ねた羽根のようなものを付け、モーターでシャフトを回すとそれがパイプの入り口を開いたり閉じたりさせて音にヴィブ ラートを与えているのです。
ヴィブラフォンと同じ鉄琴の仲間ですが、音域が高音域で2オクターブ程度。ダンパーのないものも多く、ヴィブラートはかかりません。
教会で使用されているような鐘を管状(チューブラー)にして、木琴と同じような並びにして吊るした楽器です。チャイムと呼ばれる事もあります。日本ではNHKの「のど自慢」の鐘として有名です。
日本マリンバ協会監修